【熊野通信】その拾五 《気のコスモロジー》
 月日の経つのは早いもので、いよいよ冬至も過ぎ「お燈祭りは男の祭り、山は火の滝、下り龍」と熊野の新宮節にも唄われる日本有数の勇壮な火祭り(世界文化遺産・神倉山)が、来月2月6日(旧暦のお正月)に迫ってきています。今回は、紀の国・熊野の自然の「気エネルギー」についてお話ししたいと思います。
●見えない「気」の不思議
 やる気・その気・本気・正気・・私達の身の回りは、日常様々な「気」によって支えられています。例えば私達は、毎朝起きて空を見上げたとき、その日のお天気によって「今日は雨だからうっとうしいなあー」とか「スカッと晴れて心も爽やか」と、その日の気分まで知らず知らずに影響を受けています。また、会社や商店もその年の気象や景気によって売上が変わってきますし、お店ではお客さんの人気やインテリアなどの雰囲気によって左右されています。このように「気」は普段あまり気付かない存在ですが、私達の社会や生活やカラダの根底にしっかり根付き、一定の自然のリズムを貫いていると言えます。
●紀の国・熊野は「気エネルギーの国」
 では、計り知れないこの「気」と言うチカラ・・・それは一体どこから来るのでしょう?「気」は宇宙の産物とも言え、自然の無償のエネルギーなのです。インドでは「プラーナ」、ギリシャでは「エーテル」、またポリネシアでは「マナ」と言って、世界中で何らかの目には見えませんが、エネルギーや物の根源となる不思議な「気体」の存在が想像されていたのです。
 紀の国・熊野はもともと隈野(くまの)と言われるくらい隅っこにある国で、今でも訪れるのに時間距離が遠く離れており不便な場所だと言えます。しかし、それ故に多くの自然が残っており、古代から熊野の神々である山や海・滝や川・大木や巨岩と言った自然そのものがご神体として残っています。千年程前に流行した熊野詣でも、都の生活に疲れた当時の人々が、この熊野の自然の濃密な「気のエネルギー」を、カラダに吸収するために我も我もと「蟻の熊野詣で」をしたのではないでしょうか?熊野古道は遠く険しい道ですが、鳥や虫の声を聴きながらひたすら歩く・・自然の気が溢れる熊野への道は魂を元気にする「エコロジカルな再生のトンネル」とも言えます。
●さあ「元の気」に戻りましょう・・・!
 最近は、健康面でも気功やリラクゼーション・マッサージなど、現代人のイライラした「気持ち」をリラックスさせる空間が街角のあちこちに溢れています。人間が発する「気」はある種の精神エネルギー体と言えますが、人工的な都会ではこの「気」がストレスにより萎縮しています。気が萎える事を、気が枯れる=気枯(ケガレ)=汚れ・穢れと表します。私達は、呼吸をしなければ一時も生きていけない存在だと言うことからも、自然の気や宇宙との気の一体感をイメージして、地球を取り巻く大気を胸一杯吸い込み、自然から遊離しない生き方を今一度見つめ直して、自然との一体感を実感し「自分の気」を元に戻しましょう。「気」は空気に代表されますが、良い空気を吸うこと!時々心の窓を開けて、自らの考え方にとらわれた澱んだ空気を入れ換えてみては如何でしょうか?
NPO法人 熊野生流倶楽部 代表 満仲雄二
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