【熊野通信】その弐
 熊野三山(熊野本宮大社・熊野那智大社・熊野速玉大社)の仕組みが、皆さんがよくご存知の、じゃんけんゲームの「グー・チョキ・パー」を表していることと、その「自然循環」と言う大切な理(ことわり)の意味は、お伝えしましたが、この熊野三山に因む神社が、あなたの街の身近にあることをご存知でしょうか?実は、日本全国津々浦々に熊野神社は、何と三千数百社もあり、北は北海道から南は沖縄まで広く分布しているのです。
●自分を見つめる旅「蟻のままの熊野詣で」を!
 古事記や日本書紀によるとイザナギノミコト(男神)とイザナミノミコト(女神)が力を合わせて、日本の国土や多くの神様を生んだとされ、途中、火の神様のカグツチノカミを生むときに、イザナミが大火傷を負って死に、行ったところが「根の国」で、そして祖霊が静まる「黄泉の国」が、熊野だと言われています。「黄泉」は「黄泉返り=蘇り」と言われ、俗世間にまみれた過去の自分を黄泉の国に葬って、新しく生まれ変わる「再生の国」と言われるようになったのです。
 今から千年ほど前の平安時代の末期に、天皇が自由な行動がとれる上皇の地位に就き、熊野三山をめざして頻繁に詣でたことから、その後皇室から武士へさらには庶民へと、魂の蘇りを求める熊野信仰が広がり、「蟻の熊野詣で」と言われるほど多くの人が、大自然の厳しい道を乗り越えて、自らを見つめ直す旅に訪れました。このような広がりを見せた理由のひとつは、熊野の神々が訪れる人々の身分や性別・貴賤を全く問わず、全てに対して公平に誰でも受け入れてくれる、懐の深い神々であったことが挙げられます。
●一人一人の心の環境をデザインした熊野の女性ネットワーク!
 さらに、熊野の信仰を広めたもう一つの理由に、熊野比丘尼(びくに)の存在があります。熊野比丘尼は、参拝者を道案内する先達(せんだつ)や、参拝者のお世話をする御師(おし)と共に熊野信仰を絵解き曼陀羅で説いた、巫女たちで組織された女性のネットワークなのです。
 彼女たちは「生命を生み育む女性」としての重要な役割・その生き方について、日本全国津々浦々をまわって、懐の深い熊野の神々への信仰を説き、平和な心への救済活動(癒しと平安)を説いてまわりました。先の全国三千数百社の熊野神社は、そんな彼女たちの活動の足跡で、その地に植樹をしたと伝えられています。
●自然の流れを感じ、素直に生きる!
 いつの世も戦争が絶えず、生命同士が憎しみ合いそして対立し合う、殺伐とした世の中ですが、自分の心の在り方・持ち方一つで、心に安らぎが訪れ仲良く和し、自らの人生が、そして広く世界が変わっていくことを、生命を育む女性や未来世代の子ども達に、一生懸命伝え歩いた熊野比丘尼に学びたいものです。
 熊野の神々は、もとは森羅万象あらゆるものに聖なるものが宿るとされる自然という、完全に調和のとれた生命の仕組みであり、熊野には古来から畏敬の念と感謝を捧げる「自然崇拝」が根付いていたようです。
 今、私たちは熊野に宿るエネルギーや、自然の流れを感じて自然と共に生きること、そしてすべてのものが常に変化し続けているのだということに気付き、その生命の流れに素直に生きることの大切さを、あらためて気づく時にあるような気がします。
NPO 熊野生流倶楽部 代表 満仲雄二
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