その六拾五 ムスビとロハス
【ムスビとロハス】
 前々回から、私たちは大自然の産霊(ムスビ)によって生まれてきて、一瞬一瞬の息を日々続けることにより、それぞれの人生を織りなしていると言うことをお話ししました。もし人生が息詰まったり、うまく運ばない時があれば、このムスビのチカラの原点に還って、息を整えるのも一つの方法です。

那智の滝
那智の滝
●再生の息吹き・・・熊野古道
 人生に傷ついたり、疲れて絶望したりしたとき、千年前の平安時代の人々は、遠く熊野の地に想いを馳せて、還魂蘇生のよみがえりの旅に出ました。世に言う「蟻の熊野詣で」です。梁塵秘抄(りょうじんひしょう)にも歌われているように「熊野へ参らむと思へども 徒歩より参れば道遠し すぐれて山きびし 馬にて参れば苦行ならず・・」と、熊野詣では京都から片道15日もかかる難渋難儀の山河を越えて、生命の原点がある大自然の「ムスビのチカラ」を得るために、老若男女が生まれ変わりを目指し足を運んでいたのです。
●むすんで甦る・・・那智大瀧
 自然と信仰が重なりあった日本人のこころの原郷・熊野の神々は、山や森や木々そして川や海に宿っていますが、中でも那智の大滝には、最も古くは牟須美神(ムスビ)と言う「結び=産霊」の威力、すなわちモノを産み出す霊力や、生産や産育にかかわり、生命波動を産み出し元気にする造化の仕組みがありました。また滝は「たぎる」とも言い、生命が燃えたぎる再生の象徴として、古代人は眼に見えぬ聖なるエネルギーとムスビ、畏敬の念をもって大切にしてきたのです。
●大らかなロハスの神々・・熊野権現
 熊野の神々は、信不信を選ばず、浄不浄を問わず、貴賤にかかわらず、男女を問わず、すべてをありのままに受け入れると言う、大らかで懐の深い存在として古くから知られています。かの和泉式部も熊野詣でをした折、月の障りになって京都へ引き返そうとしましたが、夢に熊野権現が現れて「もともと塵にまじわる神だから、何も遠慮はいらないよ、どうぞ参詣してくれ!」と、無事お参りできたと伝えられています。
 理不尽や差別が今だ蔓延る現代にあって、大自然のムスビの仕組みを教えてくれる熊野の神々は、実は隠れた「ロハスな神々」ではないでしょうか。
 

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